現代の市場は情報過多であり、単なる製品機能や価格での差別化は困難です。このような環境で顧客から選ばれ続けるためには、ブランド・エクイティ(企業が持つブランドの資産価値)の構築が不可欠です。本記事では、ブランド・エクイティがなぜ重要なのか、その構成要素、構築・測定方法、そして成功事例まで徹底的に解説します。ブランド・エクイティは、企業の最も重要な無形資産の一つであり、その戦略的な構築と管理は、価格競争からの脱却と持続的な利益成長を実現する鍵となります。
目次
ここでは、ブランド・エクイティの基本的な概念を解説します。会計用語の「エクイティ(資産)」から派生したこの言葉が、なぜマーケティングにおいて重要視されるのか、その本質的な意味を解き明かします。
ブランド・エクイティは、ブランド論の第一人者であるカリフォルニア大学のデビッド・アーカー名誉教授によって提唱された概念です。その定義は「ブランドの名前やシンボルと結びついた資産(または負債)の集合であり、製品やサービスの価値を増減させるもの」とされています。
簡単に言えば、ブランドが持つ「資産価値」のことです。この価値は、有価証券や設備のように貸借対照表に直接記載されるものではありませんが、企業の収益力を大きく左右する重要な無形資産として認識されています。広告やキャンペーンといった日々のマーケティング活動は、この無形資産を蓄積していくための投資と捉えることができます。ブランドエクイティという考え方は、そうした活動の成果である「認知率」や「好感度」が、企業の「売上」や「利益」といった最終的な事業成果にどう貢献するのかを繋ぐ、架け橋のような役割を果たすのです。
ブランド・エクイティとブランド・ロイヤルティは混同されがちですが、両者の関係を正しく理解することが重要です。
・ブランド・エクイティ ブランドの「総合的な市場価値・資産価値」を指す、より広範な概念です。ブランド認知やブランド連想など、後述する複数の要素から構成されます。 |
・ブランド・ロイヤルティ 顧客が特定のブランドに対して抱く「忠誠心や愛着」を指します。これは、ブランド・エクイティを構成する極めて重要な要素の一つです。 |
つまり、ブランド・ロイヤルティはブランド・エクイティという大きな傘の下にある一つの要素です。高いブランド・ロイヤルティを持つ顧客基盤は、安定した収益を生み出し、ブランド全体の資産価値(エクイティ)を直接的に高めることに貢献します。
ブランド・エクイティは、漠然としたイメージではありません。アーカー教授は、その価値を5つの具体的な構成要素に分解しました。これらの要素は独立しているのではなく、互いに影響し合う生態系として機能します。
ブランド・ロイヤルティは、顧客が競合他社の魅力的な提案(割引やキャンペーンなど)に動じることなく、自社ブランドを継続的に指名して購入してくれる「忠誠心」や「愛着」を指します。これはアーカーモデルの5つの要素の中で最も重要とされ、安定した売上の基盤であり、LTV(顧客生涯価値)を最大化する源泉です。ロイヤルティの高い顧客は、単なる購入者にとどまらず、SNSでの発信や友人への紹介を通じて、好意的な口コミを広める役割も果たしてくれるため、ブランドの成長にとって不可欠な存在です。
ブランド認知とは、消費者が特定の商品カテゴリーやニーズを感じた時に、自社ブランドをどれだけ速く、そして強く思い出せるかという指標です。この認知には複数の段階が存在します。
・助成想起 ブランド名やロゴのリストを見せられた際に「知っている」と認識されるレベル。 |
・純粋想起 「〇〇(カテゴリ名)といえば?」という質問に対し、ヒントなしでブランド名が挙がるレベル。 |
・第一想起(トップ・オブ・マインド) 純粋想起の中で、真っ先にそのブランド名が思い浮かぶ状態。 |
・支配的想起 |
高いブランド認知、特に第一想起を勝ち取ることは、顧客の購買検討リストに入るための最低条件であり、あらゆるブランド構築活動の土台となります。
▼第一想起に関して詳しくはこちら
第一想起とは?重要性と効果的な獲得方法をわかりやすく解説
知覚品質とは、製品の客観的なスペックや機能ではなく、顧客が主観的に「このブランドは品質が高い」と感じる認識のことです。これは、製品そのものの性能だけでなく、デザインの洗練度、一貫したメッセージング、信頼できる顧客サービス、ブランドが持つ哲学など、あらゆる顧客接点での体験を通じて総合的に形成されます。例えば、多くの人がトヨタの車に対して抱く「高品質で壊れにくい」というイメージは、個々の製品性能だけでなく、長年にわたる信頼の積み重ねによって築き上げられた知覚品質の典型例です。
ブランド連想とは、ブランド名を聞いた時に顧客の心に浮かぶ、あらゆるイメージ、感情、体験のネットワークを指します。例えば、「スターバックス」と聞けば「サードプレイス」「リラックスできる空間」「緑色のロゴ」「フラペチーノ」といった連想が広がり、「無印良品」であれば「シンプル」「高品質」「自然体」「感じ良い暮らし」といったイメージが結びついています。これらの連想が、ポジティブで、強力かつ、競合他社にはないユニークなものであればあるほど、ブランドは顧客の心に強い結びつきを築き、明確な差別化を果たすことができます。
その他のブランド資産は、特許、商標権、著作権といった法的に保護された知的財産や、独自の流通チャネル、他社にはない強力なパートナーシップなどを指します。これらは、競合他社による安易な模倣を困難にし、ブランドが時間とコストをかけて築き上げてきた独自性を守るための重要な要素として機能します。これにより、ブランドは持続的な競争優位性を確保することができます。
ブランド・エクイティを高めることは、単なる販売促進にとどまらず、企業全体の収益性や安定性に直接貢献する、具体的かつ強力なメリットをもたらします。ここでは、ブランドエクイティの戦略的な重要性を示す、4つの主要なメリットを解説します。
高いブランド・エクイティを持つ製品は、顧客にとって機能的価値以上の「意味的価値」や「安心感」を提供するため、ノーブランド品や競合製品よりも高い価格であっても積極的に選ばれます。顧客は、そのブランドが提供する信頼やステータスに対して対価を支払うことを厭わないのです。これにより、企業は値下げによる消耗戦に巻き込まれることなく、健全な利益率を確保した事業運営が可能となり、安定した経営基盤を築く上で極めて有利なポジションを確立できます。
強いブランドは顧客との間に感情的な絆を育み、継続的な購入を促すことで、安定した収益基盤を構築します。ロイヤルティの高い顧客は、一度信頼関係を築くと、景気の変動や競合他社による新製品の登場といった外部環境の変化に影響されにくい傾向があります。彼らは習慣的に、あるいは積極的に自社ブランドを選び続けてくれるため、予測可能で安定したキャッシュフローを生み出し、企業の売上を下支えする貴重な存在となります。
▼顧客ロイヤルティに関して詳しくはこちら
顧客ロイヤルティとは?メリットや測定指標、成功事例を解説
ブランドの熱心なファンとなったロイヤルカスタマーは、単なる消費者にはとどまりません。彼らは自発的に、自身のポジティブな体験をSNSでシェアしたり、友人や知人に熱心に勧めたりすることで、ブランドの「歩く広告塔」となります。このような第三者からの口コミは、企業が多額の費用を投じて発信する広告よりもはるかに高い信頼性を持ちます。この信頼性の高い「アーンドメディア」が自然発生的に広がることで、新規顧客獲得コスト(CAC)を大幅に削減し、マーケティング活動の費用対効果を劇的に向上させる効果があります。
顧客から厚い信頼を寄せられているブランドは、既存の市場だけでなく、新しい製品カテゴリーや事業領域に進出する「ブランド拡張」を成功させやすくなります。これは、あるブランドに対して顧客が抱いているポジティブな評価や信頼が、同じブランド名の新製品にも波及するブランドハロー効果によるものです。例えば、「無印良品」が衣料品から始まり、文房具、食品、家具、さらには住宅まで事業を成功裏に拡大できたのは、「シンプルで高品質、感じ良い暮らし」という強力なブランドエクイティが、新たな分野でも顧客の期待と信頼を獲得したからです。この効果は、企業の成長機会を大きく広げる強力なドライバーとなります。
ブランドエクイティは自然発生的に生まれるものではなく、意図的かつ継続的な戦略的努力によって構築されるものです。ここでは、ブランドエクイティを高めるための4つの方法を具体的に解説します。これらのステップは、外部顧客向けの「アウターブランディング」と、社内向けの「インナーブランディング」の両輪で進めることで、その効果を最大化できます。
すべてのブランド構築活動の出発点となるのが、自社ブランドが顧客や社会に対してどのような独自の価値を提供し、どのような存在でありたいかという「ブランドアイデンティティ」を明確に定義することです。これには、企業が目指す未来像である「ビジョン」、社会における存在意義である「ミッション」、そしてブランドの個性を具体的な言葉で表現する「ブランドコンセプト」の策定が含まれます。この揺るぎない核となる定義が、以降のすべてのマーケティングコミュニケーションに一貫性をもたらし、一貫したブランドイメージを顧客に伝えるための、基本的な指針となります。
1つ目に紹介したブランドアイデンティティを、顧客がブランドと接触するあらゆる機会(タッチポイント)で体現することが重要です。広告、SNS投稿、ウェブサイトのデザイン、店舗での接客態度、製品のパッケージ、カスタマーサポートの言葉遣いに至るまで、すべてが一貫したメッセージとトーン&マナーで統一されている必要があります。この徹底した一貫性が、顧客の心の中にブレのない強力なブランドイメージ(ブランド連想や知覚品質)を時間をかけて着実に形成していきます。社内の従業員がブランドの価値を深く理解し、共感していなければ、この一貫した体験の提供は不可能です。そのため、社内研修などを通じたインナーブランディングも並行して進めることが成功の鍵となります。
顧客の記憶に深く刻まれるポジティブな体験を創出することが、強力なブランド連想を築くための鍵となります。
\暑い☀ツイート募集!8月31日迄/#丸亀製麺さん暑いです をつけて、あなたが暑い(熱い)と思うことをツイートして教えてください!
— 丸亀製麺【公式】 (@UdonMarugame) July 29, 2020
ツイート頂いた方には、丸亀製麺から涼しくなれる返信が届く…⁉🎐💌気になったそこのあなた!今すぐお試しあれ‼✨
※毎日限定人数で実施します!お楽しみに♪ pic.twitter.com/oEksmXcb9C
ユーザーが積極的に参加できるキャンペーンは、ブランドとの楽しい関与を生み出し、好意的な連想を強化します。
例えば、丸亀製麺が実施した「#丸亀製麺さん暑いです」というハッシュタグキャンペーンは、多くのユーザーを巻き込み、「暑い日には丸亀製麺」という強力なブランド連想を消費者の心に植え付けた成功事例です。
製品の機能やメリットを伝えるだけでなく、ブランドの背景にある創業者の想いや哲学、開発秘話といったストーリーを語ることで、顧客はブランドに対して感情的なつながりを感じるようになります。これにより、ブランドは単なる「モノ」ではなく、顧客にとって「意味のある存在」へと変わっていきます。
顧客を一度きりの「購入者」から、ブランドを支え続けてくれる「ファン」へと育てるための仕組みを意図的に構築します。
顧客同士や社員が交流できる場を提供することは、ブランドへの帰属意識と愛着を飛躍的に高めます。アウトドアメーカーのスノーピークが毎年開催するキャンプイベント「スノーピークウェイ」では、ユーザーと社員が共にキャンプを楽しみ、ブランドを核とした強いコミュニティを形成しています。
ロイヤルティの高い優良顧客に対して、限定の特典やイベントへの招待、先行情報などを提供することで、「自分はブランドから大切にされている」という特別な感覚を醸成します。この特別感が、顧客との関係性をさらに強固なものにし、長期的なファンでい続けてもらうための強力な動機付けとなります。
「管理できないものは、改善できない」という言葉があるように、ブランド・エクイティもその価値を把握することが改善の第一歩です。このセクションでは、無形資産であるブランドエクイティの価値をどのように測定し、可視化するのか、主要な3つのアプローチを具体的な手法と共に解説します。
顧客の心の中にあるブランドの価値を直接測定する、最も基本的かつ重要な方法です。アンケート調査を通じて、ブランド・エクイティの各構成要素を定量的に把握します。
「〇〇(製品カテゴリ)といえばどのブランドを思い浮かべますか?」(純粋想起)や、ブランドのロゴや名前のリストを見せて「知っているブランドはどれですか?」(助成想起)といった質問で測定します。
「このブランドにどのようなイメージを持っていますか?」と自由回答形式で聞く、あるいは「高級な」「革新的な」「親しみやすい」といったイメージワードを複数提示し、当てはまるものを選択させる方法があります。
「このブランドの品質は高いと思いますか?」や「このブランドを信頼していますか?」といった項目について、5段階評価などで聴取します。
「今後もこのブランドを使い続けたいですか?」といった継続意向や、「このブランドを友人や同僚に勧めたいですか?(NPS®)」といった推奨意向を質問することで測定します。
これらの調査を定期的に実施することで、マーケティング活動が顧客の認識にどのような影響を与えたかを時系列で追跡できます。
測定する構成要素 | 設問タイプ | 具体的な設問例 |
---|---|---|
ブランド認知 | 純粋想起 | 〇〇(製品カテゴリ)と聞いて、最初に思い浮かぶブランドは何ですか? |
ブランド認知 | 助成想起 | 次のブランドの中で、ご存知のものをすべてお選びください。 |
ブランド連想 | 自由連想 | △△(ブランド名)と聞いて、思い浮かぶイメージや言葉を自由にお書きください。 |
知覚品質 | 5段階評価 | △△は、品質が高いブランドだと思いますか。(全くそう思わない ⇔ 非常にそう思う) |
ブランドロイヤルティ | NPS® | △△を、ご友人や同僚に勧める可能性は、0点から10点でどのくらいありますか? |
ブランドが企業にどれだけの金銭的価値をもたらしているかを算出する方法です。マーケティング投資のROI(投資対効果)を経営層に説明する上で非常に重要となります。
世界的に最も権威のあるブランド価値評価手法の一つです。「財務分析」(将来の利益予測)、「ブランドの役割分析」(利益のうちブランドが貢献した割合の算出)、「ブランド強度分析」(ブランドの将来性の評価)という3つの精緻な分析を組み合わせ、ブランドの金銭的価値をドル建てで算出します。その信頼性からISO 10668の認定も受けています。
M&A(企業の合併・買収)の際、買収価格と買収される企業の純資産額との差額は「のれん」として会計上計上されます。この「のれん」は、企業のブランド価値を含む無形の超過収益力を示すものと考えられ、ブランド・エクイティの代理指標と見なすことができます。ただし、のれんには技術力や顧客基盤などブランド以外の無形資産も含まれるため、あくまで概算値となります。
もしブランドがゼロの状態から現在の認知度や評判を築き上げると仮定した場合、どれくらいの費用(広告宣伝費、人件費、Webサイト制作費など)が必要になるかを算出します。その総額を現在のブランド価値と見なすアプローチです。
アンケート調査のような「意識」ではなく、実際の市場における顧客の「行動」や企業の「業績」から、ブランドの強さを間接的に測定する方法です。
競合製品やプライベートブランド製品と比較して、自社製品がどれだけ高い価格で販売できているか。その価格差は、顧客がブランドに対して感じている付加価値の現れであり、ブランド・エクイティの一つの指標と見なせます。
強いブランドは市場での競争において優位に立ち、高い市場シェアや安定した成長率としてその成果が現れます。市場におけるブランドの受容度を示す客観的なデータです。
「あなたはこのブランドを友人に勧めますか?」という質問に対する回答から、「推奨者」の割合から「批判者」の割合を差し引いて算出されるスコアです。顧客ロイヤルティを測るシンプルかつ強力な指標であり、将来の収益性との相関も高いとされ、多くの企業で重要業績評価指標(KPI)として採用されています。
アプローチ | 主な測定手法 | 測定できること(指標) | メリット | デメリット/注意点 |
---|---|---|---|---|
消費者ベース | アンケート調査 | 認知度、連想、ロイヤルティなど | 顧客の心理や認識を直接把握できる | 調査設計や実施にコストと時間がかかる |
財務ベース | インターブランド法、のれん | ブランドの金銭的価値 | 経営層への説明力が高く、投資判断に使える | 算出が複雑で専門知識が必要な場合が多い |
行動ベース | 価格プレミアム、市場シェア、NPS® | 市場での競争力、顧客の推奨意向 | 実際のビジネス成果と直結している | ブランド以外の要因(営業力、流通など)に影響されやすい |
ブランド・エクイティは、すぐに築けるものではありませんが、一度構築すれば、企業の持続的な成長を支える最も強力で、真似されにくい資産となります。本記事で解説した「ブランドロイヤルティ」「ブランド認知」「知覚品質」「ブランド連想」「その他のブランド資産」という5つの構成要素を常に意識し、戦略的な構築と適切な測定を継続的に行うこと。それが、激しい競争環境の中で長期にわたって「顧客から選ばれ続けるブランド」になるための重要な方法です。
まずは自社のブランドの現在地を把握することから始めてみましょう。簡単なアンケート調査やNPS®の測定を実施し、現状を可視化することが、将来のブランド戦略を立てるための、欠かせない第一歩となります。
クラウドサーカスが提供する「Metabadge」は、デジタルバッジや参加型コンテンツを通じて顧客エンゲージメントを高め、ブランドロイヤルティ向上に貢献するアクション型ロイヤルティプログラムです。ブランド・エクイティ構築の具体的なツールとして、ぜひご検討ください。 フォーム入力後、資料を閲覧できます。
アクション型ロイヤルティプログラム「Metabadge概要資料」
メタバッジのサービス概要資料を
無料でダウンロードできます
メタバッジに関するお問い合わせ、
無料相談はこちらよりお気軽にご連絡ください